盛夏の午後。

 強い光をさえぎる屋根が、濃い陰を落とす渡り廊下を伝って、詰め所に戻ると、彼女の上官である日番谷冬獅郎は、少し前かがみになって文机に向かっていた。
 山と詰まれた書類越しに、執務室へ入ってきた彼女に、「オウ。」とだけ声をかける。
乱菊はひとまず、手元の書類をひとくくりに纏めた後、隣の机にぺたりと座り込んで、仕事を手伝い始めた。



 丹念な情報収集と、細かな調整。

 異例に若くして栄職についた彼には、その華やかな才と裏腹に、地道な作業を好む所があった。
出る杭は打たれるのが常の、軍人気質な十三隊において、
まだ、あどけないと言って良いような少年に、年かさの部下を率いることができているのは、
その、自信に裏打ちされた威厳のみならず、実際、煩雑なルーティンワークを黙々とこなす胆力があってこそのものだ、と乱菊は思う。

 
 彼女の上官は、目の付け所は悪くない。
 
 少なくとも、自分の足元が不安定なまま、突っ込むようなことはしない。

 それでも、果たして、今、彼が向かう陰は、
 少年の小さな手のひらに、負えるものなのか、どうか。 

 彼の片腕として、各所に根回しを行い、基盤固めを進める一方で、
今、自分がするべき事は、むしろ、重石となって、ブレーキをかける事なのではないか、という不安が頭を過ぎる。
手探る事件の根は、思いのほか深く、その全貌はようとして知れない。
それでも、自らが追う「何者か」に飲み込まれるような悪寒は、常に背後を離れなかった。
 
  そんな、乱菊の思惑を余所に、彼女の上官は、片時も休まず、事務処理をこなしていく。
はたして、彼は、食事や睡眠さえ、とっているのか、いないのか。




 (・・・・まだ、不摂生しても、無精ひげ、生えないのよね、、。)


 ここ数日、しきりに伝令を飛ばし、書類の山と格闘している彼の、緩やかな横顔を眺めていたとき、
ふと、そんな事を思って、乱菊は くすり と、わらう。

 集中しているのか、自身が見られていることに気付かない、その、横顔を、
つついてみたくなって、彼女は、墨書きの書類を避けるように、袂を手繰り、窓辺に座る彼の頬へ、
ゆっくりと、その、右手を伸ばした。






あとがき
 えと、、これって日乱なのかな、、、?
でも、書きたかったのは、阿近さんの不意打ちウインク♪
普段、渋いカオした人がいきなし茶目っ気だすと、ドキドキするよな、、ってところで(汗)
イメージと違ったら申し訳ないですヨ。(局長風味☆)


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